先日、オンライン日本語教師の勉強会で、講師役をつとめました。
Claude Cowork と ChatGPT Work を使って、HTML教材をその場で作ってしまおう、というハンズオンです。60分。題材は動詞の「て形」の導入教材にしました。『みんなの日本語』第14課、『GENKI』第6課にあたるところです。
正直に書くと、引き受けるときの気持ちは、二つに分かれていました。
やってみたい、とは思いました。普段ひとりで試していることを、同じ日本語教師の方々と一緒にやれる機会は、そうありません。
一方で、自分に務まるだろうか、とも思いました。わたしはAI活用の専門家ではありません。素人ながら試行錯誤しているだけで、体系的に学んだことは一度もない。その人間が「教える側」に立っていいのだろうか、と。
その二つが混ざったまま、当日を迎えました。
引き受けた瞬間に、一番学ぶ人になった
ところが、やると決めた時点で状況が変わりました。
人に教えるとなると、まず自分が分かっていなければなりません。それで準備を始めたのですが、そこで気づいたことがあります。
わたしが勉強したのは、AI活用の全体ではありませんでした。
「60分のあいだに、参加者が自分のPCに教材ファイルを1つ受け取って帰る」——この一点を達成するために必要な部分だけです。それ以外は、意識的に調べませんでした。時間がなかったからでもありますが、それ以上に、必要なかったからです。
結果として、勉強会の準備そのものが、わたしにとって一番効率のいい学習になりました。
リーン・ラーニング
このやり方に名前がついていることを、最近知りました。
たてばやし淳さんが紹介されていた『リーン・ラーニング』という本です。2025年にアメリカで出て、ニューヨーク・タイムズとUSAトゥデイのベストセラーに入った本の、日本語版が出たそうです。
たてばやしさんは、この本のことを「無駄なく少なく学び、多くの結果を出す」超効率的な学習法と書かれていました。そして、情報過多な現代では「完璧に学んでから動こうとする思考の癖は足かせになる」とも。
読んだとき、自分がやったことの説明がそこにあると思いました。
AI活用の情報は、いま無限にあります。全部を追いかけようとすれば、いつまでも準備が終わりません。「まだ分かっていないから」と言い続けて、結局なにもやらないまま数年が過ぎる。
わたしがそうならずに済んだのは、優秀だったからではありません。日付が決まっていて、逃げられなかったからです。
日本語教師どうしでやることの意味
もうひとつ、やってみて分かったことがあります。
一般向けのAI講座はたくさんあります。でもそこでは、日本語教師にとってどの機能が要るのかを、誰も絞り込んでくれません。
日本語を教えることについては、参加された先生方はみなさん経験が豊富です。だから「これは授業で使える」「これは要らない」の判断が速い。教えることの経験が、AI活用の学習範囲を勝手に絞ってくれるわけです。
同業者どうしで、手を動かしながらやる。この形式でなければ、こうはならなかったと思います。
参加された先生方の声
「教材を自分で作ったことが、ほぼなかった」という方が、その日のうちに1つ作って帰られました。「手直しに時間はかかるが、一度作ってしまえば楽になる」と、もう次を作り始めた方もいます。
そして、いちばんはっとしたのが、最後の一言でした。
「指示出しが苦手なんです」
> AIの使い方のみならず、AIとの付き合い方を学べました。指示出しが本当に苦手で、レッスン中にも私の意図が伝わらず生徒を困惑させてしまうことが度々あるので、これを機に指示出しの仕方を鍛えていきたいと思いました。
読んだとき、しばらく考え込みました。
AIに指示を出すことと、教室で学生に指示を出すこと。この方は、それを同じ問題として捉えています。
言われてみれば、その通りです。どちらも、頭の中にある「こうしてほしい」を、相手に伝わる言葉に変換する作業です。曖昧なまま投げれば、AIは的外れなものを返してきますし、学生は困った顔をします。返ってきたものを見て、どこが伝わっていなかったのかを考えて、言い直す。やっていることは同じです。
AIの練習をしていたつもりが、教えることの練習になっていた。
こういうことが起きるから、日本語教師どうしでやる意味があるのだと思います。
おわりに
AIが教材づくりの手間をどんどん引き受けてくれるようになりました。実際、あの日わたしたちが60分で作ったものは、以前なら何時間もかかったはずのものです。
では、教師の仕事はなくなっていくのか。
そうは思いません。ただ、残る部分の性質が変わってきているのは確かです。そのあたりを、次回もう少し考えてみます。
『リーン・ラーニング』のことは、たてばやし淳さんのこの記事で知りました。
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